渓流魚(アマゴ)に私は2点、強く惹かれるパーツがあります。・・と言うより、特徴的パーツを持つ魚体に惹かれる、ですね。
まずはオスの顔付き。鼻曲りです。
この格好良さはもう、鳥肌が立ちそう。
これは繁殖期に他のオスと闘う為の、形状変化。
咀嚼しない渓魚には鋭い歯は必要なさそうなんですが、牙も生えますね。それでメスを巡り、大きな口で噛み付きあって喧嘩します。
この時は体の大きな個体が基本勝ちますから、繁殖シーズンまでに強く育った魚が沢山の子孫を残せるのですね。
個人的な感覚では、クワガタでもカブトムシでも、子供の頃はメスよりオスの方が捕れると嬉しかったです。家でペアで飼育するなら、雌雄欲しかったですけどね。
男の子的には、強そうで格好良いと想うのは、オスの方じゃないかな? 鹿にでも猪にでも、それは私は今も感じます。
渓流魚の成熟したオスには、これに似た感覚があるんですよね。
早熟な若いオスアマゴや、サイズがそこまで大きくない個体だと、鼻が曲がるところまではいかなくて、やや尖った口先になります。
これが大型で、2年、3年と歳を経ると、それはそれは厳つい。しかし何の理由か、大型でもそこまで口がゴツくないオスも居ます。
顔付きだけではなく、同じ環境なら、サイズが大きくなるほどに渓流魚の強さが増すのは確かです。(鮭科の魚は他種でも形状変化は起きますが、今回は省略します。)
もう一点、メスにも特徴的なパーツを持つ個体が居ます。その一つが尻鰭。
先端が尖って長伸びしています。
このタイプに秋以外に出会えると、とても嬉しい。
これは尾鰭で産卵床を作る際、産卵に適した深さまで掘れたかを測るために、川底に鰭先を当ててるようですね。
その作業は全てメスが担い、オスは脇で観てるだけ。この時オスは、他のオスの乱入を防ぐために、周囲を警戒し、追い払い、闘っています(実際には産卵時に乱入されたりしますが)。
オスはこのために形状変化し、メスは産卵の為に変化するのですね。未成熟な段階では、性質も形状も、雌雄に大きく目立つほどの差は見受けられません。
つまりオスもメスも、形状変化がハッキリと起こるのは成熟して行動変容するから。そしてその変化はサイズが増すと顕著になります。
産卵後は多くの良型アマゴは死んでしまうはずなんですが、生き延びる個体が居る。
メスは尾鰭が産卵床を掘る際に欠損し、季節が進むとその傷が回復してきますが、傷痕はあります。これらの痕跡もまた魚体のサイズが大きくなるほどに顕著。尻鰭は伸びたままで縮みませんし、一度成熟した特徴は、翌年にも残っています。
こうした特徴的な個体を観察しながら、魚について学ぶことで、その姿の意味が理解できてきました。
メスの産卵回復個体では、30㎝を超すサイズはレア度が高い(特に春先)。
これらは前年の産卵時にすでに尺クラスか、それに近い良型のはずです。自然河川で1年魚が尺クラスに育つのは考え難く、2年生であろうと想像します。つまり春先に出会うこのタイプは、3年魚。
3年魚は全体としては生息数は多くないです。しかし河川環境なのか、釣りを通した感覚として、出現率の高低が河川によりあるようです。
2年で成熟した尺アマゴは、前年秋に沢山の卵を産んだでしょう。
卵塊が大きくなった秋の大型アマゴは、内臓が収縮し、エサをほとんど食べません。若魚と違い、沢山食べて体力を付けられないのです。
産卵で体力を使い果たし、尾鰭が傷付いて遊泳力が落ちた体。
回復しようにも、食べるエサの少ない冬が来ます。これでどうして春を待てるのでしょうか? ですが一部の個体は翌年、流れに現れる。
そして一端は縮んだはずの内臓でエサを摂り、昨年より更に成長し、再び秋まで生き、2度目の産卵に臨む。
このタイプには力強い生命力を感じますし、感動的ですらあります。
この親から生まれた子供たちは、旺盛な繁殖本能をも受け継ぐものなのでしょうか。
何故?とか、不思議?とか、そうした自然への疑問や想いは、そのまま魅力でもあります。アマゴの噛み付きそうな顔も、大きな鰭もそんな一部。
パーツの一つ一つにそれぞれの意味があって、そして魚体の全体が纏う、環境を映したような野性味に惹かれるんですね。
渓流魚との出会いを求めて釣りをする事は、自然の命が持つ野生の魅力を探すことでもあると想っています。