渓流魚のアマゴは鮭の仲間。
サケは川で生まれ、仔魚が降海して育ち、成熟して河川に戻って産卵する。そして親魚は繁殖行動が終わると、100%斃死します。
アマゴも同じく、元々は海に降り、産卵の為に遡上する魚でした。海に降りたアマゴがサツキマス。
サツキマスの生活史は鮭と似ていますが、仔魚が生まれてすぐに下降せず、約一年を河川で過ごすことが違います。
河川で成長する期間がある故、産卵は仔魚が生育し易い上流域(渓流)で行われます。サツキマスは長距離を移動し、産卵場所に遡上する。
氷河期まではすべてのアマゴは、サツキマスだったと言われています。
その後氷河期が終わり、気温水温が上昇し、冷水性の魚であるアマゴは、海に向かうことも河川に戻ることも困難になりました。
そこで河川上流部の渓流域に留まり、河川で一生を終えるサイクルが定着。これが我々が「アマゴ」と呼んでいる魚。
河川上流部は水温が棲息に適していますが、海のような大きな水域と違い、食べられるエサも少なく流量も乏しいことから、大きく育つことが難しい。
それではサツキマスのように多量の卵が抱けず、繁殖数が少なくなります。
そこで陸封型(河川型)のアマゴは、繁殖の回数が2回あるサイクルを獲得しました。
遡上型ほど大きくならないアマゴは、一回目の繁殖行動後に死なず、生き延びる。これは凄い!と私は思います。自然の仕組みに感嘆させられます。
しかしそれでも、繁殖行動に参加したアマゴは、一回で息絶えるものも居るようです。
現在のアマゴたちにも、下降&遡上の遺伝子は引き継がれています。本来のように海へ行くもの、または下流の本流へ、ダム湖へ。
ダムや大きな堰で流れが分断された河川では、魚は海と川とを行き来出来ません。そこで海まで行かずとも、途中の大きな水域まで降りて育ち、繁殖の為に遡上するサイクル群が居ます。
遡上型でもアマゴの姿のままのもの、シラメ化した陸封サツキマスになるもの、姿型は様々。
下降して遡上する魚は、河川型より平均して大きくなります。そしてこれら大型魚は基本的に、サツキマス同様に繁殖行動は一回です(例外があるかも)。
大きな水域に接続している河川では、生まれた河川に留まる居着き型と、遡上型が混在します。対して、滝や堰堤で下流との交流が途絶えた渓では、殆どのアマゴが居着き型です(放流が行われていれば話は別)。
こうした環境の違いで、アマゴたちの育ち方に違いが現れ、それが繁殖行動の回数に係わっている。
繁殖の為に遡上するアマゴは多くが二年魚。そして繁殖行動後は居なくなります。対して居着きアマゴは二年で成熟しても生き延びる個体が居るので、全体数からは少ない三年魚が遡上型より多め。
私は釣り人ですから、こうした個体差には強い関心を持っています。
居着き型と遡上型では形質が違いますし、未成熟の一〜二年魚と三年魚では、これまた違います。
「釣り」を通して感じる魚の反応と、釣り上げた姿型から、沢山のことを感じます。
繁殖回数、成熟未成熟、育ち、形状、性質など、自分が相手をしているのは、どんな魚なのかを追求すること。
知識と想像と実体感を合わせる作業は、とても奥深く、尽きない楽しみです。