瀬脇の緩やかな流れから、流芯に入る筋。
そこを通した時、微妙な反応が。
アワセを入れると、掛かった魚が一気に流芯を越して対岸側へ!
よぉっし、出たね。
下流に走られないよう、竿を絞る。
マズいな、木の枝が沈んでる。そちらに行かせないように、
その瞬間、バン!と魚が大ジャンプ!
しかも頭は木の枝方向。
マズい!
枝に巻かれたら・・無理矢理に竿操作で上流側に魚を向ける。
上手くいった。
魚は流芯に潜り込み、流勢を味方に泳いでる。
手前側に寄せられるか?
いや、ここは安全策で下流に落とそう。
一段下で魚体がハッキリと見えた。婚姻色に染まったオス。40超くらいはあるな。
まだ寄らない。
もう一段落とし、緩流へ誘導。
捕った!
ありがとう、よく出てくれた。
色合い、歯並び、顔付き。まさに完熟の魚。
まるで鮭の遡上個体のよう。やはり渓魚は鮭科魚種だと納得です。
ここまで成熟が進んだ個体は、初めて見た。最後の大仕事があるだろうに、ゴメンね。
この個体に着いた無数の傷は、何度も他のオスと接触した事を示すものと推察。これと闘い噛み付く相手とは?
鮭属のオスは成熟すると鼻曲がりになり、牙が生えます。これは咀嚼する為でなく、繁殖期に他のオスと闘う為の形状変化。
肌のヌメリ感が増すのは、やはり闘う際に体を守る為であろうと。
一尾の魚から、想像が脹らみます。ジッと眺めていたい気がしますが、早く流れに戻したい。
リリースしたら、勢いよく帰って行きました。沢山の子孫を残してくれよ!!
・・・・・
2月の渓流解禁から始まり。
冬〜初春、春〜初夏〜梅雨、盛夏〜晩夏、そして秋。
渓魚達は季節ごとに行動を変え、装いを変えます。その変化が最も大きいのが秋です。
この一尾に出会い、一年の渓流釣りの軌跡が、リアルに頭の中に湧き出しました。
一年間、正しくは2月〜9月まで八ヶ月間。
魚体にサビを残した冬は、川底で動かず。
回復し、春からは活発に採餌して成長し。
梅雨明け後、猛暑渇水をやり過ごし。
秋の繁殖行動に向かい。
そしてその生命を賭して、短い一生を終える。
これらの事に体感として触れられるのが、趣味の渓流釣り。釣りを通じ、魚を知ることで、その大切さに気付き、想いを巡らせます。
渓流禁漁期寸前、僅かの期間にしか見られない魚。
釣りを通した出会いから、沢山の事を感じ、学ばせて貰えた。
ありがとう。
素晴らしい渓流シーズンだった。