鮭属のオスは、成熟すると口先が尖り、牙が生え「鼻曲がり」になります。同時に背の高さが増し、鱗が埋没してヌメリ肌に。
これらは繁殖期に、他のオスと闘う故の形状変化。
メスを獲得する為に、そしてテリトリーを守る為に、他のオスを威嚇し、噛み付いて排除しようとします。
国産渓魚の産卵シーズンは秋。
晩夏から秋にかけて、姿が大きく変わります。そして同時に、成長の為に採餌していた魚達の行動は、繁殖行動メインにシフト。この時には体が婚姻色に染まって、色・形状共に、別種の様相。
鮭属の大型の牙の鋭い事は、素手で触れると人間の肌が切れるほど。
鮭属の最終形態。「悪そう」で「強そう」で、顔が怖い。
これが堪らなく格好良いと私は感じます。
国産種ではないですが、同じく鮭属のニジマスの成熟体も、凄い顔付きに。
この個体などは、マス釣り大会や摑み取りイベントなどで見掛けるニジマスとは、印象がかなり違います。
鮭の仲間たちはどれも、成熟した際の体の形が雌雄で違います。
野生の美しさはどちらも纏っているのですが、オスの迫力の一番は、私的にはその顔付き。
魚族でなく、もはや何か別の獣かと。
私が渓流釣りに深くハマった一因は、写真で見た、オスの鼻曲りに惹かれたことです。自分でも釣ってみたいと、強く思いました。
初めて実物と出会った時は、興奮と感動から吠えたものです。
手にした魚から実際に受ける力強い印象は、画像から見えるそれとは比べようもなく。
本当に同じ魚なのか?
そう思ってしまうほど、若魚と成熟魚は別物。
更には、メスよりオスの大型成熟個体の迫力は段違いです。戦闘力の高さが、そのまま姿に現れたかのように。
アマゴの場合、成熟年齢は1〜3歳で、3年魚が最も厳つい。
1・2歳の早熟の個体は鼻曲りまではいかず、尖った口先になります。
これらの中には繁殖行動後に生き延びるものが居て、春先にすでに尖った口先を持つ魚は、そうした個体。
繁殖期に同サイズのメスとペアになれば、幾分は平和かもしれません。しかし大型が近くに居れば、追い散らされます。
これは真夏に出会った個体。
渓魚はどの時期でも、それぞれに美しく、格好良い。色合いの綺麗さが際立つのは、初夏頃でしょうか。
夏が近付くと、オスの鼻先が尖り始め、魚体に薄っすらと婚姻色が出てきます。
そしてこちらが秋の個体。
ここまでに成れば、他のオスを追い散らす側になり、この魚を威嚇する個体は多くは無い。
その意味では強く優秀な魚で、そうした魚が遺伝子を優先的に残せます。その為に体を大きく成長させて、繁殖期に臨む。
これも秋の魚。沢山の傷が付いています。歯跡ですね。
大型になっても、同等かそれ以上の個体は居ます。
それらが出会えば、噛み付き合いの闘いになる。
何度も噛まれ、傷だらけになっても引かない。それは子孫を残す本能。この姿になった魚は、繁殖行動後は命が尽きます。
短い一生の中の、僅か一ヶ月ほどの間の魚体の形状変化は、まさにこの時の為のもの。
魚体の持つ迫力は、その個体が競争に勝ち抜いてきた様と、繁殖の本能が現れているようにも思えます。
この姿を追い掛けて、長く渓流釣りをやってきました。
出会いが叶うたびに感動し、その記憶が思い出として残り続けています。