強い流芯からの白泡の脇に、大岩の窪みがある。水中で流れの方向が変わっているだろうと想定し、立ち位置を取った。
見えない底層流と、見えている表層流の合わさる部分の緩流帯を狙う。
狙い通りのピンポイントで反応!
アワセを入れると、魚は流芯下へ。
足場は問題ない。強い流れで泳がせてから、緩流へ出す。
ん? 魚が黃茶色。イワナだったか?
良い型には違いない。慌てず、慎重に緩流に寄せる。
あれれ、違う!?
顔と体躯がイワナじゃない!
初めて見たタイプの婚姻色。黃茶に橙〜赤味を帯びたブナ模様。
実物は水中ではもっと黄土色に見えました。
良い魚だ。顔付き、体躯、そこにこの色合い。
渓魚はどの時期も、どの個体も、それぞれの美しさを纏っています。
この時の魚は各パーツのバランスが、とても整っていると感じました。
渓流魚は個性豊か。時期ごと、地域ごとに姿に差異が見られます。そこが渓流釣りの大きな魅力でもある。
一尾一尾、野生の魚はどれも美しく、そして出会いには同じものが2つと無い。
釣りの積み重ねの中で、印象に残る経験が幾つも出来ました。
一つは魚との出会い方。こんな釣り方で、こんな道具で、と言う、釣り手側のこと。もう一つ、出て来てくれた魚の姿・色彩に感じる、相手側のこと。
また環境設定は大事で、同じく釣るなら、好みのフィールドに立ちたい想いもあり。
つまり、釣法(過程)、結果、環境設定が揃うことで、渓流釣りの満足度が高まるものと思います。
と、ここまでは事前想定が可能な部分で、実釣には「想定外」が現れます。
予期せぬヤリトリを強いられる場面があったり、出てきた魚が意外なほど大きい等、自然の中では驚きの事象が起こる。本稿の魚には、その色彩に目を奪われました。
自身の欲求が高次に満たされる釣りは稀にしかなく、そこに極稀な想定外の出来事が加わると、その出会いは忘れられない記憶になると思っています。